木造3階建 中庭をもつ狭小住宅
もともとは一つの広い戸建て住宅だった敷地を、4分筆して新たに分譲された土地に新築した戸建て住宅です。旗竿敷地ではありますが、南側の隣家の庭の木々が借景になり、北側は駐車場で開けているという立地環境を活かした設計で、限られた面積の中での開放感を実現しています。
お施主さんからの希望は、「景色を愉しむ」というテーマでした。いわゆる外の景色を魅力的にすることはもちろんですが、日常生活の中の家族の様子も景色としてみえるように、ということがもうひとつの大きなお題でした。このテーマのために考えたことは、
・家の中で視線が通ること。
・適度な距離感をもたせること。
です。中庭を設けることで、各室の間に距離をとりつつ、視線を通すことが可能ではないかと考えました。敷地の面積は約80m2ですが、建蔽率、容積率、斜線制限などの法的な制約の中で最大限の空間の広がりを獲得するために、中庭を挟んだ3層のスキップフロアとし、かつ移動動線をすべて階段に集約して室の面積を確保するような計画としました。
この住宅に住む家族は、夫婦二人と、子ども二人の四人家族です。玄関をはいると、階段と中庭越しにダイニングキッチンが見えてきます。
ダイニングキッチンからは、中庭越しに玄関や、洗面室、目線をあげるとリビングがありさらにその先にはお隣の庭の木々の緑と空が見えます。
リビングにあがると、バルコニーから木々の緑と空が眺められ、
振りかえると下方に中庭、階段越しにダイニングの様子がうかがえます。目線をあげると階段の踊り場の書斎コーナーが視界に入り、中庭ごしに子供部屋がみえています。ダイニングやリビングなどでそれぞれ過ごす家族の様子をお互いに日常の景色として感じることができるようになりました。
この住宅では、キッチンのあり方を入念に検討しました。単純に広く使えるレイアウトであれば、もっと効率のよい配置の方法がありました。でも、ダイニングが生活の中での利用度が高い場所であるとすれば、生活の中の家族の情景を最も愉しむことができる場であるべきなのではないだろうか、というのがお施主さんの強いご希望としてあったからです。
そこで、水回りは中庭に面したアイランドの配置としました。正面には子どもたちのスタディ用のカウンターを設けています。カウンターと連続したダイニングテーブルは、動かすことができます。お客さんが来て、席数が増える時は独立させて90度回転して利用することが可能です。これらの細かい配慮を形にするために、オーダーキッチンで、建築と一緒にデザインをしています。
お施主さんからのもう一つのオーダーは、どこかに和の雰囲気が入った大人の暮らしの場。長い年月を共に過ごす家には、一過性のデザインではなく、時間と共になじんでいくような普遍的なデザインを求められました。
材料のもつ素材感を活かせるように床材、壁材、スチールの塗装色を決めていきました。フローリング材にはタモをえらび、玄関からの動線空間や吹き抜けの天井には木を貼り、壁には和紙のクロスを用い、玄関土間の仕上げは洗い出しとしました。巾木やサッシの枠回りも、あえて木質をみせて和室的なしつらえの雰囲気を出しています。あかるく現代的でありながら、どこか懐かしい和の空間を作り出せたのではと思っています。